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2006年 01月 28日
読み切り小説 【 満 月 】
ジャングルの奥。「ヤリ」のような木が2本、星空に伸びている。
そのすっと伸びた木の間には大きな満月が輝いている。 奇妙なマスク、上半身裸の祈祷師が口上を述べる。 _2本の神聖な木の間に満月が昇ったぁ〜。 人々はその口上に聞き入る。 _ただいまより「いけにえの儀式」をおこなう。 この部族にはまだ「いけにえ」の風習が残っている。それはこうだ・・。 「ヤリ」のような2本の木の間に満月が昇ったとき、その年に生まれた子の中で「3という数字に関係する子」を神にささげるのだ。3の関することがらが多いと神が喜ぶとされている。 _今年の「いけにえ」は・・ 母親たちは赤ん坊をしっかりと抱きしめている。特にまだ1歳になっていない子を持つ母親は気が気でない。 _この子だ!! ・・指をさされた母親は子どもをしっかりと胸にだきながら泣き崩れた。 _今年の「いけにえ」は神様も特にお喜びになるだろう・・なぜなら、この子が生まれて今日でちょうど333日目だぁ。このような縁起のいい赤ん坊はめったにない。みんなぁ〜、今年は食べ物には困らないぞぉ〜〜。 祈祷師がそう叫ぶと、人々の中から歓声が起こった。中には自分の子どもが選ばれなかったことで、まわりに笑顔を振りまく母親もいた。隣同士肩をたたき合う父親もいた。年寄りたちは神様が喜んでくれることで食べ物には不自由しないことがわかって喜んだ。子どもたちは1年に1回のこの祭りに興奮している。 ただひとり・・子どもを抱いてうずくまる母親・・ この子が生まれたときから母親は今夜のことが気になっていた。それは今年子ども生んだすべての母親がもつ不安だった。しかし、この「いけにえの儀式」のことを口にすることは禁じられていた。神の罰を恐れたのだ。 子ども生んだ若い夫婦はふたりきりになって「いけにえの儀式」のことを口にした。中には「2本の神聖な木の間に満月が上がる日」を数えてみるものもいたが、その日は誰にもわからなかった。なんとか自分の子どもだけは「いけにえ」を避けなければならない。それが子ども生んだ若い夫婦の共通の思いだった。 うずくまっている母親の胸の中で、生まれて333日目の子がすこやかに眠っている。 _お願いです。この子だけは・・この子だけは・・やっと生まれた子なんです・・ 母親が必死に周りにすがる。祈祷師がゆっくりと祭壇から下りてくる。観衆は静まりかえっている。 やがて祈祷師は母親に前に立つとすっと両手を差し出した。その手はもうすでに血でそまっていた。子どものいけにえのの前に、山羊をいけにえにしていた。その山羊の血が祈祷師の腕からすっと垂れた。 祈祷師はだまって両腕を伸ばしたままだ。(その内、見ている人々から声が上がる・・)と祈祷師は思っている。例年そうだ。少し間をおいて観衆の奥の方から声が上がる、太い声だ・・ _みんなのためだぁ〜。みんなを救うためだぁ〜。 その声に呼応して、観衆が叫び出す。 _早くしろ〜、何をしている〜〜 祈祷師だけが、だまって両手を差し出している。 -- その時だ。上の方でなにやら音がしたかと思ったら、いままで満月で照らされて白く光っていた祭壇がにわかに暗くなった。 観衆は何ごとが起こったのかと静まりかえった。 祭壇を包み込んだ闇は次第に人々をも飲み込もうとしている。 静まりかえっていた人々が騒ぎ出した。まず母親に抱かれていた赤ん坊が異様な泣き声を出しはじめた。その泣き声を聞いて、子どもたちが家の方に走りはじめる。老人は何かぶつぶつ言いながら目をつぶる。青年だけがカッと目を開き、そのだんだんと大きくなる闇を見つめていた。 「この子だぁ〜」と名指しされた母親とその子だけは、しゃがんでいるために何が起こっているのかわからない様子だ。 祈祷師が叫んだ・・ _満月が・・満月が・・消えた・・ いままで、煌々とと輝いていた満月が忽然と姿を消していた。 人々はパニックとなり逃げまどうばかりだ。やがて広場にはうずくまった母親とその子だけが残った。 -- _もうだいじょうぶだよ。 その母と子にやさしく声をかける男。・・父親だ。 手には長いツタと椰子の葉でできた大きな傘を持っている。 _あの高い2本の木の間にツタを張って、その真ん中までいってこの椰子の葉の傘で満月を隠したんだ。この子を救うために頑張ったよ。 父親はそういうと、父と母は2本の高い木を見上げた。そこには満月が金色に輝いていた。 母親に抱かれた子だけがすこやかに眠っていた。 by A_L_I_V_E | 2006-01-28 02:11 | ・日常のこと
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